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わらうあくま

笑う悪魔

野村 胡堂

「ロック」筑波書林、1948(昭和23)年12月~1949(昭和24)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,687 字 · 55 页

青空文庫

「勇か、丁度宜いところだ、――お前に鑑定して貰い度いものがあるんだよ、――此方へ来てくれ、刀だがネ、――お前は刀剣の方は通だったね」

大階段の上から顔を出して、千種十次郎は助け舟を出しました。

「有難い。――そいつは俺の畠だ。何を隠そう本阿弥の勇とは俺のことなんだ」

勇は外套を着たまま、帽子を鷲づかみに、大きい階段を二つずつ飛んで、二階の千種の方へ驀進するのです。頑強な関守の本田大助も、斯んなのに逢ってはどうすることも出来ません。

二階の広間には、丁度此時駆け付りた、警視庁の花房一郎を中心に、捜査の最初の会議が開かれて居たのです。

名探偵の花房一郎は此時もう四十を越した筈ですが、打ち見たところは千種十次郎や足の勇と大した違いの無い若さで、俊敏な眼と、歯切れの良い言葉と、そして機智に富んだ応対を除けば、何んの特色もない、まことに平凡な中年の紳士――というよりは、唯のサラリーマンにしか過ぎません。

大学を途中で止して平巡査から叩き上げ、長く巡査部長の肩書を持って居りましたが、近頃漸く特別任用で警部になったばかり。まことに気の長い出世振りです。本人は併し探偵そのものが面白くてたまらないらしく、学友が重役にも大臣にもなろうと言うのに、相変らず此道に没頭して、警視庁の至宝という地位に甘んじて居ります。