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こうばいつきげ

紅梅月毛

山本 周五郎

「富士」大日本雄辯會講談社 、1944(昭和19)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,869 字 · 32 页

青空文庫

阿市はうち返すように云った、「そのつもりで手まわりの物も持ってまいりました、わたくしと下女二人、お長屋さえ拝借ねがえましたらほかに御迷惑はおかけ致しませぬ、どうぞよろしくおたのみ申します」いかにも大身の育ちらしく、はきはきときめどこをきめてゆく態度は気持のいいほど爽快だった、半之丞はしばらく感嘆するように娘の顔を見ていたが、やがて「では支度をさせましょう」と云って立ちあがった。

長屋には三人の家士と和助兄妹が住んでいた。かれらはすぐに半之丞の住居のほうへ移り、そのあとへ阿市と二人の下女がはいった。手まわりの物というのが馬に三駄もあり、下女たちの持物さえ二駄あった。侍長屋とはまるでそぐわない大仰な荷おろしのありさまを見ていた家士のひとりが、「まるでお輿入れのようだな」と呟いた。するともうひとりが、「本当にそうなるかも知れぬぞ」と笑いながら云った、「なにしろ当時うちのご主人は娘をもった親たちの覘いの的だからな」「ではあの牡丹は婿ひきでか」そんなことを囁きあい、三人ともわが事のように昂奮した眼を輝かしていた。……少しはなれて見ていたお梶は、家士たちの話を耳にするとさっと顔色を変えた、そして逃げるように厨口のほうへと去っていった。