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こうばいつきげ

紅梅月毛

山本 周五郎

「富士」大日本雄辯會講談社 、1944(昭和19)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,869 字 · 32 页

青空文庫

を聞いたときからお梶は浮きたつようなよろこびに包まれた。……牡丹ほどの名馬を措いてあの馬に乗って下すった、たとえひと月足らずでもお梶の飼った馬に。それはなにかしらん自分に対する主人の心をつきとめたような感じだった。「そんなことを思ってはいけない、そんなばかなことがある筈はない」自分でそう叱るあとから、抑えようのない幸福感がつきあげてくるのだった。「おまえ天下第一の仕合せ者ですよ」流れのなかですそを洗ってやりながら、お梶は浮き浮きとその馬に話しかけた、「おまえのような者が御二代さまの御前へ出られるなんて、夢にも考えたことはないでしょう、牡丹をごらん、……あんなりっぱな馬でも乗っては頂けなかったのに、うちのご主人だからこそおまえを選んで下すったんですよ、おまえ嬉しくはないの、……牡丹のお飼い主はたいへん怒っておいででしたよ」

「そんなに怒っていたか」とつぜんうしろでそう云う声がした。お梶はあっといいながらふり返った、半之丞がそこへ来て立っていた、お梶は耳の根まで赤くしながら、「はい」と眼を伏せた。「阿市どのはそんなに怒っていたか」「はい、わたくし……よくは存じあげませんのですけれど……」