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うつくしいにほんのれきし
美しい日本の歴史
吉川 英治
「週刊文春」1959(昭和34)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,561 字 · 37 页
ところが上智大学のラウレス教授から痛烈な抗議が来た。デウス右近様は決してそんな行状のお人ではない。青年期といえ淫行があるなどは以てのほかで、恋愛沙汰も断じてあったとは考えられぬ。耶蘇会会報にもかくかく。伝記にもかくかく。総てかくかくの通りであると、自著、記録の類を抱えては、その頃の私の疎開先、吉野村の寓居へ、じつに根気よく抗議と訂正を求めに来られた。
私はへきえきした。或る日などは、あの奥多摩の山村の雪の降る日にも来て聖デウス右近の清童ぶりを説くのであった。それはちょうど日蓮教徒の折伏の熱意にも似ていた。ついに私は一日、上智大学へ赴いて、教授の宣教師諸兄へ、「文芸と史実、及び宗教」にわたって、るる一場の咄弁をこころみたが、ついには面倒になって、小説も結びをつけてしまった。
そのさい感じたのは、ラウレス氏のような学究でもカソリックではおよそ性の問題となると、これを頭からひんしゅくする傾向が強い。恋愛すらも危険がる。依然“マリアは婚せずして孕む”を信じるかのようにこの人間性焦点から眼を反らす風がみえる事だった。
そこへゆくと、東洋に発祥した宗教はそうでなかった。