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うつくしいにほんのれきし

美しい日本の歴史

吉川 英治

「週刊文春」1959(昭和34)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,561 字 · 37 页

青空文庫

逆に性と取っ組んだ形跡さえある。天台や真言の密教の一部典は性経であったという。村松梢風さんの女経みたいなのではない。水原堯栄氏の「立川流の研究」。守山聖真氏の「文観上人之研究」などにもその実存は窺われよう。しかしカソリックが危険視するごとく天台や真言でもそれはやはり危険視して、いわゆる秘封の経としてしまった。ところが、禅では、恐がったり秘すようなケチなまねはしていない。

誰かが“禅坊主と性”という課題を持つと面白いがとおもっているが、私にはいとまもないので性急にここでは一人の尼の話だけにとどめておく。

それは鎌倉時代の慧春尼という人で、「比丘尼史」に依ると、尼の俗姓は藤原氏、相模の糟谷に住み、容姿絶群であったという。

婚家はよく分らない。だが三十になるやならずで後家になったとみえる。兄の了庵について、禅門に入った。佳麗な比丘尼は、清楚な梅みたいに鎌倉中の山門を色めかせたにちがいあるまい。艶書を送られたり、夜這いに見舞われたり、しじゅう言い寄る坊主が絶えなかった。

うるさくなって、慧春尼は、自分で自分の顔を後には焼け火ばしで烙いたという。次の話は、それ以前の事だろう。