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わかとのじょなんき

若殿女難記

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館 、1948(昭和23)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,611 字 · 45 页

青空文庫

紋太夫などは下座のほうで見ていたのだが、思わず「うまいぞ伝吉」と叫びたくなったくらい、若さまの演技は神に入ってみえたのである。津山からの見舞い品を捧げ、一文字の短刀を戴いて、この感動的な対面が終ったとき、若さまは静かに「母上の御位牌へ御挨拶を致したい」と云った。紋太夫やその一味の者はぞっと背筋を寒くした。こういう事には故実がある、で、それが筋違いになりはしないかと心配したのである。だが伯耆守は快よく許し「奥へ案内するように」と老女に命じた。

大助さまが奥へはいっているあいだ、奸臣一味の者たちがどんなに胆を煎ったかは御想像に任せよう、ついでに大助さまが無事に戻り、すべての首尾が上々であると知ったときの、彼等の安心の大きさも御推察にお任せする。正しく極上にして割引なしの大収穫で、若さま御一行は愛宕下の中屋敷へお帰りになった。紋太夫が初めて笑顔をみせたのはこの時である。

「母上の御位牌に挨拶をしたいなんて、よくあんな大胆不敵な智慧が出たな、どうして思いついたんだ」

「だってそれが人情てえものだろう」若さまはにやりと得意そうに笑った。「わっちがひょいと気づいたからよかったが、さもないとおやじ怒ったかも知れねえ、こいつは御褒美の値打があるぜ、紋太さん」