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おちばいき
落ち梅記
山本 周五郎
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1949(昭和24)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,748 字 · 61 页
金之助は承知した。
「公郷は頭もよし才分もある男です、あんなになったのは理由があるのですから、立ち直れば必ず群をぬく人間になるでしょう、そのつもりであなたも辛抱してやって下さい」
金之助のこう云うのを、由利江は頭を垂れて聞いていたが、やがてしずかに顔をあげ、初めてこちらへその眼を向けた。
「あの手鏡を頂いてまいって、わたくし悪うございましたでしょうか」
「――どうしてです」
「小さいときからそのつもりでいたからでしょうか、頂いてまいらないと、心が残るように思えまして……」
「――もちろんそれでいいですとも、あのときから差上げる約束だったのですから」
「わたくし大切に致します」
低いけれども感動をこめた云い方だった、金之助は黙って劬わるように頷いた。
法顕寺を辞して出てから、初めて金之助は自分の心が大きないたでを受けていることに気づいた。そしてそのいたでは家に帰り、二日三日と時の経つにしたがって、ますます深くなるように思えた。――自分は由利江を失ってはならなかった。由利江も沢渡へ来るのが本当であった。手鏡そのものにはさして意味はないけれども、それを通じた自分と由利江、沢渡と佐竹との関係には、根の深い情誼がある。