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おちばいき
落ち梅記
山本 周五郎
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1949(昭和24)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,748 字 · 61 页
そしてそこには、二人が結びつくべき条件が、ごくしぜんに成長していた。
――鏡を貰ってゆかないと心が残るようだ。
由利江はそう云った。それがなにを表明するかは余りに明瞭である。ひとをとおさず、自分でじかに公郷とのゆくたてを話したが、それは二人のあいだに感情の親しい黙契がある証拠ではないか。
「いけないと云うべきだった」金之助は独りで幾たびも呟いた、「おれは正直でなかった、これでもし由利江が不幸になるとすれば、それはみんなおれの軽率の責任だ」
もちろんそれを取返す法はない。事はもう定ってしまったのである、これからは由利江を不幸にしないために、半三郎を立ち直らせるのがせめてもの償いである。――こう自分を説きつけるあとから、すぐにまた由利江を失ったことの後悔と、根づよいみれんに悩まされるのであった。
藩主からの特旨で、父の助左衛門は夏いっぱいの静養が許された。緊急を要する事務は居宅で執ってよしということで、役所の者の出入りが多く、金之助にも多忙な日が続いた。病状には変化がなかった、というよりも、あの夜から二三日すると手の痺れも消え、どこにも異和らしいものは感じられなくなった。