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おちばいき

落ち梅記

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1949(昭和24)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,748 字 · 61 页

青空文庫

「一年ぶりで会うんだ、そういう調子はやめようじゃないか」

「そして金之助のようにまじめになれと云うのか」半三郎は片手で口をぐいと拭いた、「――冗談じゃあない、なるほどおれは身を持崩している、酒を飲み賭博をやる、四方八方借りだらけだ、けれども人のうしろから小股をすくうような、卑劣なまねは決してしたことはないぜ」

「――――」

金之助は盃を置いた、さすがに堪り兼ねたのである。盃を置き刀を取って、そのまま席を立とうとした。

「どうするんだ、恥ずかしくていたたまれないのか」

「酔わないときに会おう、今日は帰る」

「よし帰れ、だが」半三郎はこう云うと、ふところからなにか取出して、金之助のほうへ投げやりながら叫んだ、「――帰るならこれを持ってゆけ、当人はあとから届けてやる」

金之助の額がすっと蒼くなった。投げだされたのは手鏡である、由利江がせがんで持っていった、八花形のあの漢鏡であった。金之助はつとめて怒りを抑え、できるだけ静かに相手を見た。

「これはどういう意味だ、半三郎、――当人はあとから届けるとはなんだ」

「しらばっくれるな、おれがこの鏡を知らないと思ってるのか、きさまがお祖母さんの形見だといって大事にしていたことは、子供のじぶんからちゃんと知っていたぞ」