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くものゆめ
蜘蛛の夢
岡本 綺堂
岡本綺堂『蜘蛛の夢』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蜘蛛の夢、穴、有喜世新聞の話、恨みの蠑螺、火薬庫、真鬼偽鬼、慈悲心鳥、女侠伝、廿九日の牡丹餅、放し鰻、馬妖記、平造とお鶴。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 147,189 字 · 298 页
それを見て駕籠屋もおどろいた。
「おい、姐さん。どうしたのだ。」
「どうするものかね。」と、女はあざやかな江戸弁で答えた。「こん畜生のおかげで、あたしは一生を棒に振ってしまったのだ。こいつ、唯は置くものか。おぼえていろ。」
言うかと思うと、かれは相手をいったん突き放して自分の店へ駈け込んだ。店の入口にはさざえの殻がたくさんに積んである。かれはその貝殻を両手に掴んで来て、四郎兵衛を目がけて続け撃ちに叩きつけた。その行動があまりに素捷いのと事があまりに意外であるのとで、周囲の人びとも呆気に取られて眺めているばかりであった。供の義助がようよう気がついて彼女を抱き留めた時、四郎兵衛はもう二つ三つの貝殻に顔をぶたれて、眉のはずれや下唇から生血が流れ出していた。
この騒ぎに、この一行が今まで休んでいた店を始め、近所の店から大勢が駈け出して来た。往来の人も立ちどまった。
「まあ、どうぞこちらへ……。」と、人びとにたすけられて四郎兵衛は元の店へはいった。
「ええ、お放しよ。放さないか。」
かれは義助を突きのけて、四郎兵衛のあとを追おうとするのを、駕籠屋四人もさえぎった。