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くものゆめ
蜘蛛の夢
岡本 綺堂
岡本綺堂『蜘蛛の夢』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蜘蛛の夢、穴、有喜世新聞の話、恨みの蠑螺、火薬庫、真鬼偽鬼、慈悲心鳥、女侠伝、廿九日の牡丹餅、放し鰻、馬妖記、平造とお鶴。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 147,189 字 · 298 页
」と、お杉は言った。
今夜は江の島に泊って、あしたは足ついでに鎌倉見物の予定であったが、出先の災難に気をくさらせたお杉は、早く江戸へ帰りたいような気にもなった。自分と義助は差したることもないが、四郎兵衛の顔の腫れているのも何だか不安であった。一日も早く江戸へ帰って療治をしなければなるまいかとも思った。
「また来るといっても、めったに出られるものじゃあない、折角来たのだから、やっぱり鎌倉へ廻りましょうよ。」と、四郎兵衛は言った。
「でも、おまえの怪我はどうだえ。痛むだろう。」
「なに、大したこともありません。多寡が打傷ですから。」
「じゃあ、まあ、あしたになっての様子にしよう。なにしろお前は少し横になっていたらいいだろう。」
宿の女中に枕を借りて、四郎兵衛を暫く寝かして置くことにした。平生は軽口で冗談などをいう義助も、唯ぼんやりと黙っていた。雨はだんだん強くなって、二階の縁側から見晴らす海も潮けむりに暗かった。
「あいにく降り出しまして、御退屈でございましょう。」と、宿の女中が縁側から顔を出した。
「お江戸の松沢さんと仰しゃる方がたずねてお出でになりましたが、お通し申してよろしゅうございましょうか。