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くものゆめ
蜘蛛の夢
岡本 綺堂
岡本綺堂『蜘蛛の夢』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蜘蛛の夢、穴、有喜世新聞の話、恨みの蠑螺、火薬庫、真鬼偽鬼、慈悲心鳥、女侠伝、廿九日の牡丹餅、放し鰻、馬妖記、平造とお鶴。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 147,189 字 · 298 页
「真っ直ぐに江戸へ帰るとすれば、もう一度その茶屋の前を通らなければならない。また何事かあると面倒だから、鎌倉をまわって帰る方がいいでしょうよ。」
「それもそうですねえ。」と、お杉はうなずいた。
庄五郎の宿は近所の恵比寿屋であるというので、帰るときに義助は傘をさして送って出た。今までの混雑に引換えて、雨の降りしきる往来に人通りは少なかった。義助はあるきながらそっと訊いた。
「藤沢の女はまったく気違いでしょうか。それとも何か子細があるのでしょうか。」
さっきから庄五郎の顔色と口振りとを窺って、義助は彼が何かの子細を知っているのではないかと疑ったからである。果して庄五郎は小声で言った。
「おまえは知らないか。その女は三十間堀の喜多屋という船宿に奉公していた女に相違ない。目と鼻のあいだに住んでいながら、おまえは一度も見たことがないのか。」
そう言われて、義助も気がついた。お安に似たような女が近所の河岸の船宿の前に立っていたり、表を掃いていたりしたのを見たような記憶もある。但しそれは四、五年も前のことで、近来はそんな女のすがたを見かけなかった。それが突然に藤沢の宿にあらわれて、自分の主人に乱暴狼藉を働いたのは、一体どういう子細があるのか。