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くものゆめ

蜘蛛の夢

岡本 綺堂

岡本綺堂『蜘蛛の夢』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蜘蛛の夢、穴、有喜世新聞の話、恨みの蠑螺、火薬庫、真鬼偽鬼、慈悲心鳥、女侠伝、廿九日の牡丹餅、放し鰻、馬妖記、平造とお鶴。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 147,189 字 · 298 页

青空文庫

そのなかで、あしたの白洲へ呼出して吟味する筈の事件が二つ三つあるが、秋山はその下調べをあと廻しにして、他の一件書類を机の上に置きならべた。それは本所柳島村の伊兵衛殺しの一件であった。

この月の三日の宵に、柳島の町と村との境を流れる小川のほとりで、村の百姓助蔵のせがれ伊兵衛という者が殺されていた。伊兵衛はことし二十二で、農家の子ではあるが瓦焼きの職人となって、中の郷の瓦屋に毎日通っていると、それが何者にか鎌で斬り殺されて、路ばたに倒れていたのである。下手人はまだ確かには判らないが、村の百姓甚右衛門のせがれ甚吉というのが先ず第一の嫌疑者として召捕られた。

甚吉が疑いを受けたのは、こういう事情に拠るのであった。同じ百姓とはいいながら、甚吉と伊兵衛とは家柄も身代もまったく相違して、甚吉の家はここらでも指折りの大百姓であったが、二人は子供のときに同じ手習師匠に通っていたという関係から、生長の後にも心安く附合っていた。伊兵衛は職人だけに道楽をおぼえて、天神橋の近所にある小料理屋などへ入り込むうちに、かの甚吉をも誘い出して、このごろは一緒に飲みにゆくことが多かった。