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くものゆめ

蜘蛛の夢

岡本 綺堂

岡本綺堂『蜘蛛の夢』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蜘蛛の夢、穴、有喜世新聞の話、恨みの蠑螺、火薬庫、真鬼偽鬼、慈悲心鳥、女侠伝、廿九日の牡丹餅、放し鰻、馬妖記、平造とお鶴。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 147,189 字 · 298 页

青空文庫

土地の奴らをだますのはともあれ、自分までも一緒にだまそうというのは、あまりに上役人を侮った仕方である。一日も早く彼らの正体を見あらわして、ぐうの音も出ないように退治付けてやらなければ、自分の胸が納まらないのであった。

「おれはひどく燥っているな。」

かれは自ら嘲るように笑った。いかなる場合にも冷静である筈の自分が、今度の事件にかぎって燥り過ぎるのはどういうわけであるか。忌々しいからといって無暗にあせるのは、あまりに素人じみているのではないか。こんなことで八丁堀に住んでいられるかと、秋山は努めてかの一件を忘れるようにして、他の調べ物に取掛ったが、やはりどうも気が落ちつかなかった。

そうして、今にも藤次郎が表の門をたたいて、何事をか報告して来るように思われてならないので、今夜も家内の者を先へ寝かして、秋山は夜のふけるまで机の前に坐り込んでいた。寝床にはいったところで、どうで安々と眠られまいと思ったからである。

そのうちに本石町の九つ(午後十二時)の鐘の音が沈んできこえた。五位鷺がまた鳴いて通った。

秋の夜が長いといっても、もう夜半である。少しは寝ておかなければ、あしたの御用に差支えると思って、秋山も無理に寝支度にかかり始めると、表で犬の吠える声がきこえた。