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くものゆめ

蜘蛛の夢

岡本 綺堂

岡本綺堂『蜘蛛の夢』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蜘蛛の夢、穴、有喜世新聞の話、恨みの蠑螺、火薬庫、真鬼偽鬼、慈悲心鳥、女侠伝、廿九日の牡丹餅、放し鰻、馬妖記、平造とお鶴。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 147,189 字 · 298 页

青空文庫

途中で宇都宮の友達をたずねて、それから……。」

「日光へでも廻るか。」

「日光……。」と、森君は急に顔をくもらせた。「いや、日光はもう十年以上も行ったことがない。あるいは一生行かないかも知れない。」

「ひどく見限ったね。日光はそれほど悪いところじゃあるまいと思うが……。」

「無論、日光の土地が悪いというわけじゃ決してない。僕も紅葉の時節になると、また行ってみたいような気になることもあるが、やはりどうも足が向かない。なんだか暗いような気分に誘い出されてね。」

「なぜだ。日光で何か忌なことでもあったのか。」と、わたしは一種の好奇心にそそのかされて訊いた。

「むむ。」と、森君は今ついたばかりの電燈の弱い光りを仰ぎながら溜息をついた。

「日光で一体どうしたんだ。」

「実はね。」と、言いかけて、森君は急に気がついたように懐中時計を出して見た。「や、こりゃいけない。もう三十分しかない。上野まで大急ぎだ。」

「いいじゃないか、ひと汽車ぐらいおくれたって……。別に急ぎの旅でもあるまい。」

森君は焦れったそうに衝と起ちあがって、本箱のなかを引っ掻きまわしていたが、やがて一冊の古い日記を持出して、投げ出すように私のまえに置いた。