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くものゆめ
蜘蛛の夢
岡本 綺堂
岡本綺堂『蜘蛛の夢』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蜘蛛の夢、穴、有喜世新聞の話、恨みの蠑螺、火薬庫、真鬼偽鬼、慈悲心鳥、女侠伝、廿九日の牡丹餅、放し鰻、馬妖記、平造とお鶴。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 147,189 字 · 298 页
五日、晴。涼し。――お冬さんは別に身体が悪いのでもないよう也。ほかに何か苦労があるらしく思わる。予の隣りの大きい旅館に滞在せる二十六、七の青年紳士も、朝夕にたびたびここの店に立寄って、お冬さんに親しく冗談などいう。お冬さんの顔色の悪きは、あるいは彼になにかの関係があるのではないかとも疑わる。――午後六時ごろ再び散歩。六兵衛老人の店先に腰をかけていると、かの青年紳士は小せんという町の芸妓を連れて威張って通る。お冬さんの眼の色いよいよ嶮しくなる。これにて一切の秘密判明。紳士は磯貝満彦といいて、東京の某実業家の息子なる由。――
森君がこうしてお冬という娘のことを気にかけているのを見ると、その日記にいわゆる「なんだか可哀そう」という程度を通り越しているらしい。森君もおそらく眼を嶮しくして、彼女と青年紳士との行動に注意していたのであろう。しかし六日と七日の日記の上にはお冬さんに関する記事はなんにも見えない。もっともこの二日間は毎日おそろしい雷雨がつづいたので、森君もさすがに外出しなかったのであった。
八日、晴、驟雨。午前七時起床。けさはぬぐうがごとき快晴なり。