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くものゆめ
蜘蛛の夢
岡本 綺堂
岡本綺堂『蜘蛛の夢』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蜘蛛の夢、穴、有喜世新聞の話、恨みの蠑螺、火薬庫、真鬼偽鬼、慈悲心鳥、女侠伝、廿九日の牡丹餅、放し鰻、馬妖記、平造とお鶴。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 147,189 字 · 298 页
午をすぎてまだ間もないのに、湖水の上は暮れかかったように薄暗くけむっていた。
「李の死んだのはいつだね。」と、わたしは表をみながら訊いた。
「むむ。それを言い忘れたが、なんでも春のなかばで、そこらの桃の花が真っ赤に咲いて、おいおい踏青が始まろうという頃だった。そうだ、シナ人の詩にあるじゃないか――孤憤何関児女事、踏青争上岳王墳――丁度まあその頃で、場面は西湖、時候は春で月明の夜というのだから、美人と共に逍遥するにはおあつらえむきさ。しかしその美人に殺されたらしいのだから怖ろしい。勿論、殺したという証拠があるわけでもなし、死体に傷のあともないのだから、確かなことはいえた筈ではないのだが、誰がいうともなしに李香はその女に殺されたのだという噂が立った。いや、まだおかしいのは、その女は生きた人間ではない。蘇小小の霊だというのだ。」
「また幽霊か。」
「シナの話には幽霊は付き物だから仕方がない。」と、K君は平気で答えた。「蘇小小というのは君も知っているだろうが、唐代で有名な美妓で、蘇小小といえば芸妓などの代名詞にもなっているくらいだ。その墓は西湖における名所のひとつになっていて、古来の詩人の題詠も頗る多い。