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くものゆめ

蜘蛛の夢

岡本 綺堂

岡本綺堂『蜘蛛の夢』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蜘蛛の夢、穴、有喜世新聞の話、恨みの蠑螺、火薬庫、真鬼偽鬼、慈悲心鳥、女侠伝、廿九日の牡丹餅、放し鰻、馬妖記、平造とお鶴。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 147,189 字 · 298 页

青空文庫

しかしその時は平吉ももう酔っているので、その上に飲む元気もなく、そこらへ酒樽を投げ出したままで正体もなく寝入ってしまったところへ、町内のならず者ふたりが忍び込んで来た。かれらは平吉が富に当ったことを知っていて、まず彼を刺し殺してその金を奪い取るつもりであったらしいが、金のありかは判らなかった。かれらは死人のふところから使い残りの一両あまりを探し出して、わずかに満足するほかはなかった。かれらは行きがけの駄賃に、そこにある酒樽に眼をつけて飲みはじめた。酒には毒が入れてあったので、かれらはその場で倒れてしまった。

以上の想像が事実とすれば、平吉を殺そうとした酒が却って平吉の味方になって、その場を去らずに仇二人をほろぼしたのである。左官屋の女房が酒を贈らずとも、平吉はしょせん逃がれない命で、もしその酒がなかったらば賊は易々と逃げ去ったであろう。平吉に取って、かの女房は敵か味方か判らない。思えば不思議なめぐりあわせであった。

しかし、それで女房の罪が帳消しにならないのは判りきっていた。たといその結果がどうであろうとも、かれは預りの金を奪わんがために毒酒を平吉に贈ったのであるから、容易ならざる重罪人である。