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くものゆめ

蜘蛛の夢

岡本 綺堂

岡本綺堂『蜘蛛の夢』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蜘蛛の夢、穴、有喜世新聞の話、恨みの蠑螺、火薬庫、真鬼偽鬼、慈悲心鳥、女侠伝、廿九日の牡丹餅、放し鰻、馬妖記、平造とお鶴。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 147,189 字 · 298 页

青空文庫

暗い夜にはどこの家でも早く戸を閉じてしまった。怪しい馬は相変らず三日目か五日目には異様な嘶きを聞かせて、家々の飼馬をおびやかしていた。

「どうも不思議なことだな。しかし面白い。」と、その噂をきいた城中の若侍たちは言った。

前に言ったような事情で、かれらは何か事あれかしと待ち構えていたところである。その矢先へこんな風説が耳にはいっては猶予がならない。糟屋甚七、古河市五郎の二人は、すぐに多々良村へ出向いてその実否を詮議すると、その風説に間違いはないと判った。

「もう三月ではないか。正月以来そんな不思議があったら、なぜ早く俺たちに訴えないのだ。」

二人はさらに隣り村へ行って、かの鉄作を詮議すると、彼はその後半月あまりも病人になっていたが、この頃はようよう元のからだに戻ったとのことで、甚七らの問いに対して何事も正直に答えた。しかし、自分の出逢った怪物がどんな物であったかを説明することは出来なかった。何分にも暗い夜といい、かつは不意の出来事であるので、半分は夢中でなんの記憶もないのであるが、それは普通の牛や馬よりも余ほど大きい物で、突きあたった一刹那に感じたところでは、熊のような長い毛が一面に生えているらしかったというのである。