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くものゆめ
蜘蛛の夢
岡本 綺堂
岡本綺堂『蜘蛛の夢』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蜘蛛の夢、穴、有喜世新聞の話、恨みの蠑螺、火薬庫、真鬼偽鬼、慈悲心鳥、女侠伝、廿九日の牡丹餅、放し鰻、馬妖記、平造とお鶴。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 147,189 字 · 298 页
城下であるから附近の地理はふだんからよく知っている。殊に昼のうちにも大抵の見当は付けておいたので、二人は眼先もみえない夜道にも迷うことなしに、目的の場所へ行き着いた。
どこという確かな的もないが、怪しい馬は水から出て来るらしいというのを頼りに、二人は多々良川に近いところに陣取って、一本の大きい櫨の木を小楯に忍んでいると、やがて一刻も過ぎたかと思われる頃に、どこからか大きい足音がきこえた。
「来たらしいぞ。」
二人は息をころして窺っていると、彼らの隠れ場所から十間余りも距れたところに、一つの大きい黒い影の現れたのが水明かりでぼんやりと見えた。黒い影はにぶく動いて水にはいって行くらしかった。つづいて水を打つような音が幾たびか聞えたので、甚七は市五郎にささやいた。
「水から出て来るのではない。水にはいるのだ。」
「どうも魚を捕るらしいぞ。」
「馬が魚を食うかな。」
「それが少しおかしい。」
なおも油断なく窺っていると、黒い影は水から出て来て、暗い空にむかって高くいなないた。それを合図のように二人はつかつかと進み寄って、袖の下に隠していた火縄を振り照らすと、その小さい火に対して相手は余りに大き過ぎるらしく、ただ真っ黒な物が眼のさきに突っ立っているだけで、その正体はよく判らなかった。