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くものゆめ
蜘蛛の夢
岡本 綺堂
岡本綺堂『蜘蛛の夢』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蜘蛛の夢、穴、有喜世新聞の話、恨みの蠑螺、火薬庫、真鬼偽鬼、慈悲心鳥、女侠伝、廿九日の牡丹餅、放し鰻、馬妖記、平造とお鶴。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 147,189 字 · 298 页
あくる朝になって聞きますと、母はゆうべもよく寝付かれなかったそうでございます。
あさの御飯をたべてしまうと、わたくしは会津屋へ行きました。きょうも朝から照り付くような暑さで、わたくしは日傘を持って出ました。伝馬町の大通りへ出て、ふと見ますと、会津屋の前には大勢の人立ちがしているので、何とはなしにはっとして、急いで店先へ駈けて行きますと、そこには一挺の駕籠がおろしてありまして、一人の男が杖をそばに置いて、店先に腰かけています。その人相や、様子が、きのう聞いた新宿のよい辰ではないかと思いながら、人込みの間からそっと覗いていますと、その男はもう五十以上でございましょう。なんだか舌のまわらないような口調で呶鳴っているのでございます。
「さあ、おれをどうしてくれるのだ。この年になって、こんなからだになって、大事の稼ぎ人を殺されてしまって、あしたから生きて行くことが出来ねえ。」
まったくよいよいに相違ありません。呂律のまわらない口でこんなことを頻りに繰返して呶鳴っているので、店の者はみんな困っているようでした。そのうちに誰かが呼んで来たのでしょう。町内の鳶頭が来まして、なにかいろいろになだめて、駕籠屋にも幾らかの祝儀をやって、管をまいているその男を無理に押込むように駕籠にのせて、ようようのことで追返してしまいました。