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くものゆめ
蜘蛛の夢
岡本 綺堂
岡本綺堂『蜘蛛の夢』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蜘蛛の夢、穴、有喜世新聞の話、恨みの蠑螺、火薬庫、真鬼偽鬼、慈悲心鳥、女侠伝、廿九日の牡丹餅、放し鰻、馬妖記、平造とお鶴。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 147,189 字 · 298 页
」と、おすまは近所の人に言った。
前にもいう通り、この親子は行儀のよい、淑ましやかな質であるので、近所の人たちの気受けもよかった。二つには零落した士族に対する同情も幾分か手伝って、おすまの荒物店は相当に繁昌した。士族の商法はたいてい失敗するに決まっていたが、ここは余ほど運のいい方で、あくる年の五、六月ごろには親子二人の質素な生活にまず差し支えはないという見込みが付くようになった。
そうなると、娘のお鶴さんももう歳頃であるから、早くお婿を貰ってはどうだと勧める者も出て来た。以前は士族さんでも、今は荒物屋のおかみさんであるから、近所の人たちも自然に遠慮がなくなって婿の候補者を二、三人推薦する者もあったが、おすま親子はその厚意を感謝するにとどまって、いつも体よく拒絶していた。それでは、あの村田という人をお婿にするのかと露骨に訊いた者もあったが、おすまはただ笑っているばかりで答えなかった。
しかし従来の関係から推察して、かの村田という男がお鶴の婿に決められたらしいという噂が高くなった。以前はあまり身だしなみもしなかったが、お鶴もこのごろは髪を綺麗に結い、身なりも小ざっぱりとしているので、容貌のいいのがまた一段と引立ってみえた。