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くものゆめ
蜘蛛の夢
岡本 綺堂
岡本綺堂『蜘蛛の夢』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蜘蛛の夢、穴、有喜世新聞の話、恨みの蠑螺、火薬庫、真鬼偽鬼、慈悲心鳥、女侠伝、廿九日の牡丹餅、放し鰻、馬妖記、平造とお鶴。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 147,189 字 · 298 页
にならなかった。お筆はさらに近所の雇人請宿へ頼みに行ったが、右から左には思わしい奉公口も見いだせないらしく、二月の末まで溝口家にとどまっていた。
「お筆さんもずうずうしい。まだ平気でいるんですかねえ。」
細君が夫にむかって彼女の放逐をうながす声がだんだんに高くなるので、お筆も居たたまれなくなったらしく、三月のはじめ、お蝶の三十五日の墓参をすませると、いよいよ思い切って溝口家を立去ることになったが、その行く先をはっきりと明かさなかった。
「今度の奉公先は一時の腰掛けでございますから、いずれ本当におちつき次第、あらためてお届けにあがります。」と、お筆は言った。
いささか不安に思われないでもなかったが、溝口もその言うがままに出してやった。そのころの習いで、幾らかの食雑用を払えば請宿の二階に泊めてくれる。お筆も一時そうした方法を取って、奉公口を探すのではあるまいかと溝口は想像していた。
お蝶は死ぬ、お筆は去る。溝口家では俄かに二つの花をうしなった寂しさが感じられた。一方の男ふたりは無事で、友之助は自棄酒を飲みながら、相変らず役所へ勤めていた。吉之助はとどこおりなく学校にかよっていた。