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くものゆめ

蜘蛛の夢

岡本 綺堂

岡本綺堂『蜘蛛の夢』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蜘蛛の夢、穴、有喜世新聞の話、恨みの蠑螺、火薬庫、真鬼偽鬼、慈悲心鳥、女侠伝、廿九日の牡丹餅、放し鰻、馬妖記、平造とお鶴。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 147,189 字 · 298 页

青空文庫

その状袋には○之助様、ふでよりと書いてあったというのです。○之助だけでは、吉之助か友之助か判りませんが、差出人の名が「筆」とあるのをみると、どうもあのお筆の書いたものらしく思われたので、念のために京橋の警察へ行って聞きあわせたのですが、肝心の状袋は寿美屋の料理番が捨ててしまったというので、その筆蹟を見きわめることの出来なかったのは残念でした。」

「お筆は身でも投げたのでしょうか。」

「さあ、ふたりの男の死んだのを見て、お筆はそこを抜け出して、築地から芝浦あたりで身を投げた。そうして、帯のあいだか袂にでも入れてあった状袋が流れ出して、かの鯔の口にはいった――と、想像されないこともありません。あるいは単に不用の状袋を引裂いて川に投げ込んだのを、鯔がうっかり呑み込んだ――と、思われないこともありません。警察でも築地河岸から芝浦、品川沖のあたりまでも捜索してくれたのですが、それらしい死体は勿論、何かの手がかりになりそうな品も見付かりませんでした。お筆は死んだのか、生きているのか、それも結局判らずに終ったわけです。警察から静岡の方へも照会してくれましたが、そこには今でも久住弥太郎という士族が住んでいて、その家来の箕部五兵衛は先年病死、五兵衛の娘のお筆というのは親類をたずねて東京へ出たっきりで、その後の便りを聞かない。