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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控
野村 胡堂
227 怪盗系図
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 157,440 字 · 313 页
「――」
平次は舌打ちを一つ、大きな伸びをすると、それを合図のように、バタバタと路地を駆けて来た女の足音。
「あっ、お前さん、無事で」
格子を開けて飛び込んで、上がりかまちへヘタヘタと崩折れたのは、お静でなくてだれであるものでしょう。
「お静か、どうしたのだ」
真夏のことで、障子を開けたままの入口へ、誘われたように平次は顔を出したのです。
「お前さん、本当に何うもしなかったんですか」
「何をいうんだ。おれはこの通り無事だが、お前こそ――」
「おや? 怪我をしているじゃないか、顔をこっちへ見せろ」
引きずり上げるように、浅間の家の中へ、行燈を近か近かと持って来ると、お静の左のこめかみから血が流れて、痛々しくも豊かな頬へ二筋三筋真紅の線を引いているのです。
「私の傷はたいしたことはありません。それよりお前さんは?」
「何をつまらないことをいっているんだ、おれは百までも生きそうだよ。そんな心配をするより、その傷の手当てをしなきゃ」
「でも、お前さんが悪者に斬られて、死ぬか生きるかわからないって――」
「だれがそんなことをいったんだ」
平次も驚きました。お静の話はあまりにも途方もないものです。