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ながやてんいちぼう
長屋天一坊
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1950(昭和25)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,453 字 · 57 页
第六席 尊きお墨付と短刀のこと
人間がいたんだが、こう云って大家に押っ付ければ」
「うまい、その件は絶妙じゃ、それじゃ」
不識斎先生が、思わず前へ乗出したので、着物の膝が――地が脆くなっていたのだろうが――びりびりと大きく裂けて口をあいた。
「それを実行すべしじゃ、家主吾助はひっかかる、些かも疑惑なしじゃ、短刀はそこらのがらくた道具で買えばよろし、お墨付は儂が書く、古い鳥子紙かなにかへ、三文判でも捺せば歴としたものになるて、それじゃ、それで家主吾助も満悦し、我ら一統もこの難を免れる、それそれ、それを決議すべしじゃ」
ここに対策会議は、一決したわけであった。
第六席 尊きお墨付と短刀のこと
並びに御落胤危うくお漏らしのこと
この雨の日より僅か数日して、そこには蔭ながら不埒な工作をしたものだろうが、或る風の強い夕刻じぶん、銀太と金太が一人の茫漠として泰然たる青年を、駕に乗せて六軒長屋へ伴って来た。
かねて妥協してあることだからして近隣の住人たちはがやがやと集合し、がやがやと山になって覗きに来た。
これがかの、神田柳原堤の、うす馬鹿なる乞食だというものであろう。年は十九かそこそこ二十歳、銭湯へも入れ、髪結床へもいったらしい、当然、住人の共同出資と思われるが、へばったような着物に袴をはいて、扇子を持っておった。