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かぜ

風

壺井 栄

「文芸」1954(昭和29)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,702 字 · 78 页

青空文庫

「さ、鍋や釜買いにゆこうよ。」

茂緒は新しい勇気にふるいたつ思いで、家を出た。鍵はあってもかける必要のない玄関をふりかえり、修造のあとについて歩いた。ふしぎな、あふれるような感情が、さっきの涙とむじゅんなくわいてきた。

近くの市場で買物は全部まにあった。まず荒物屋で七輪、土釜、箸、茶碗、バケツ、洗面器、箒、はたきとそろえた。雑巾まで売っている都会の生活にあきれながら、となりの米屋で白米一升を袋に入れてもらい、八百屋により、乾物屋で高野豆腐と切り干大根を買った。煮干を買いながら、ふっと房次の家を思いだしたが、それをふりはらうように修造の方を見た。彼の両手はあふれるほどの買物で、自由をうばわれていた。

茂緒は茂緒でやはり両手に持ちきれなくなっている。買うたびに奥さんといわれ、茂緒はそれにも上気して、疲れていた。

「もう、うちへ帰りましょうか。」

修造はすぐ同意した。そのあとについて歩きながら、茂緒はまた夢のような思いをした。この広い東京に、帰ってゆく家がある。何としても、それはふしぎであった。彼女は修造と肩をならべ、うれしげに言った。

「東京って、やっぱりおもしろいと思うわ。