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かぜ
風
壺井 栄
「文芸」1954(昭和29)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,702 字 · 78 页
人生の行路につまずいたり病んだり、苦労の多かった茂緒の二十五年の生活の集計がそこに示されているようで、その一つ一つを手にとって見ずにはいられなかった。銘仙以上のものはないとしても、いつとなくたまった着物はみな娘らしくはでなものが多かった。まだ新しい晒木綿のはんぱや、つぎのあたった古い足袋も入っていた。毛糸のショールの残り糸から、あみかけのレースの花瓶しきまで、こまごまと一つのふろしきにまとめて入っていたりする。新しい下駄も、もらいもののタオルも、古いししゅうのある半襟も出てくる。それぞれの思い出につながる一つ一つを取りだしては、すぎ去った日の自分の姿を熱心に見つめた。そしてひそかに激励するのだった。
――よくぞ茂ちゃん、生きてきたね。……
修造の兄から金をおくってきたのは、それから三日後だった。百円は大金である。やはり修造は待ちあぐねていたらしく、書留と聞くとパッと日がさしたような顔になった。手紙の文句もたいして気にかからぬらしく、一刻も早く百円に手をつけぬことには男がすたれでもするように、彼はいった。
「さあて、出かけようか。」
ふたりは蝶々のように飛びだした。