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しゃべりすぎる

饒舌りすぎる

山本 周五郎

「オール読物」文藝春秋新社、1962(昭和37)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,957 字 · 55 页

青空文庫

「十二のとしだったそうだ」

「おい、少しはなれろ」十太夫は顔をしかめながら身を反らした、「きさま、――不潔なやつだな、冗談じゃない、十二やそこいらで、ちえっ、いやなやつだな、どの小間使だ、こそのとかいったあのちびか」

土田正三郎は首を振って否定した。

「でないとすると太っちょのほうか」

「おれは知らないんだ」

「そんなことを教えられたのにか」

「少しおれに話させてくれ」

「土田は饒舌り過ぎる」

「おれではないんだ」と土田が云った、「おれはおまえと同様、なにも知らなかった、知っていたのはしのぶのほうで、聞いてみると十二のとしに、小間使から教えられた、と云うんだ」

十太夫は反らせた躯を元へ戻し、土田を眼の隅で睨みつけながら酒を啜った。土田正三郎は済まなそうな顔で、だがなにも云わずに手酌で飲んだ。

「それなら、なにをそんなに気に病んでいるんだ」と十太夫が問いかけた、「女房と喧嘩でもしたのか」

土田正三郎は「なんにも」と云って、片方の肩をまたむずっと動かした。

土田正三郎には不愉快なことも、気に病むこともなかった。実際は小野十太夫こそ、そのとき大きな心配があり、気分がおちつかず、いらいらしていたのである。