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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
吉川英治『鳴門秘帖(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 页
「右へまいろう。どうやら先に明りが見える」
「今夜は大津泊りでしょうな」
「ウム、空模様さえよければ、夜旅をかけて矢走の渡船に夜を更かすのもいいが、この按配では危なッかしい……」一八郎が、闇と知りつつ、険悪な空をまた見上げていると、万吉は敏感に、誰かここへ急ぎ足に来る跫音を聞きつけたらしく、ふいと、わきの杉の木へ身を隠した。
油断のない、気配りをしながら、一人の仲間態の男が、麓から小走ッこく駈け上がってきた。その跫音の行方を聞き澄ましていると、今、二人が来た方角とは反対に、関明神の社殿のほうへ、猿上りに急いだらしい。
「おかしいなあ、どうも妙だぜ」と万吉。杉の後ろから出てきて、ギュッと自分の耳朶をつねっていた。例の探索癖で、それからそれへの幻想が暗示を描いてやまないのである。
「どう考えても、ただごとじゃねえ。何かおかしなものが、この山に包まれているぜ。気というやつだ、魔気か悪気か妖気か殺気か。旦那は、そんなふうに思いませんか」
「ははは、すっかりさっきの侍に脅やかされたな」
「笑いごとじゃありません。これだけは、万吉が、持って生れた訳じゃねえが、十何年間、十手で飯を食ってきたお蔭に、自然と備わってきた勘なんで。