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なるとひちょう

鳴門秘帖(一)

吉川 英治

吉川英治『鳴門秘帖(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 页

青空文庫

心のうちで叫ぶのである。

さらに、何より好都合だと弥助が喜んだのは、今夜に限って、あの虚無僧が居あわせないことだった。

「あいつばかりはなんとなく怖ろしい――」と、腕利きの天堂一角すらも、二の足を踏んだので、ぎょうさんと思われるほどな、若侍の人数をすぐってきたのであるが、誰より怖れていた雄敵が欠けているとすれば、これに越したことはない。

刻、刻、刻。

一瞬の空気は、いやが上にも静かだった。

時雨堂の者は、ちょうど、台風の中心にあるようなもの、見えない魔のかげ、感じがたい運命の気流が、尺前へ迫り、寸前に囲繞しつつあるのだ。

けれど、勘の鋭い万吉も一八郎も、話に実が入って、それとは夢にも知らなかった。あまり夜更けては病人に悪かろうと、また明日の打合せを約して、二人は別間の寝床へ入った。

銀五郎は一人でそこらを片づけたり、多市に蒲団を掛けてやりなどして、何気なく縁側から空を仰いでいると、パラパラと大粒な雨! 黙しぬいていた闇の一角から、にわかに、気味の悪い冷風がサーッと一陣に揺すり立ててきた。

「あ! とうとう降り出してきやがッた」

多市の枕元まで吹ッかけてきそうな雨に、銀五郎は、あわてて、一、二枚雨戸を繰りだしたが、まだ何か不安そうに眉をひそめて、戸の間から外の様子を眺めまわした。