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なるとひちょう

鳴門秘帖(一)

吉川 英治

吉川英治『鳴門秘帖(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 页

青空文庫

それをやるまいとしてお綱はまたあわてて話しかけた。

「お言葉の様子では、あなたも江戸のようでおいでなさいますが」

江戸と聞くと、弦之丞もつい心を惹かれて、

「お察しの通りであるが、すると、お身も江戸であるとみえるな」

「はい、本郷妻恋でござります。一人旅にひけをみせまいと、わざとこんな風姿をしておりますが、挿花の師匠をしておりますもの、どうぞおついでがありましたら、お訪ねなされて下さいませ」

「同じ江戸の者であってみれば、いつかまたお目にかかる折もあろうが、少し仔細があって、しばらく江戸へは帰らぬつもり……」

「おや、なぜでございますか」

「なぜということもないが、旅が気ままでござるからのう……」

「いえいえ、旅もようございましょうが、江戸の住心地も捨てたものではございません。山の手のお屋敷町は知らぬこと、下町の小ぢんまりした格子作りで、朝の膳には鎌倉の鰹、夕方には隅田川の白魚、夜には虫売りや鮨売りもきて、縁日のある町へも近く、月の晩には、二階で寝ながら将軍様のお城を眺めて、太平楽をいっておられるような、そんな暮しはお嫌いでございますか」

懐かしいものとは聞くのであったが、弦之丞には、それとお綱とを結びつけてみても、なんの魅惑も感じなかった。