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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
吉川英治『鳴門秘帖(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 页
お船歌
「もとよりあれは重喜の手策……」
ほほ笑んで盃を取り上げたが、ふと苦い味を覚えて下へおく。
「御炯眼のほど恐れいった。しかし、あれまでにしてなぜ御成敗なさらぬのか、この左馬頭には少し腑に落ちかねまするが」
こんどは、七条卿の疑問が出た。
左京太夫や梅渓卿も同感らしく、
「密事を嗅ぎつけている輩、剣山に封じおくのも無事であろうが、いッそ、断刀の錆と致したほうが、安心でもあり、お手数もないことと考えまするが……」
「その儀、重喜も承知しておりますが、当蜂須賀家の掟として、捕えた隠密は、昔から必ず剣山へ差し立てることになっている」
「ほう、それはまたいつ頃から?」
「今より百二十余年前、蜂須賀三代の国主は義伝公、当時南には天草の乱が起っておりました」
「フム、義伝公。蜂須賀至鎮とおおせられて、非常に英俊豪邁なお方、巷間の伝えによれば、眼点の瞳が二ツあったとか承る」
「さよう、とにかく、群臣も慴伏する威風がござった。その頃江戸に将軍たる者は三代家光、この義伝公を怖るること一方ではありませんでした」
「なるほど、大いに頷けます」
「折も折とて天草の乱には、戦に破れた落人どもが、阿波こそ頼るべしとあって、海伝いにおびただしく紛れこみ、また義伝公は、左右なくそれを剣山に匿われた」