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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
吉川英治『鳴門秘帖(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 页
という次第は。
彼が江戸へ入ると真っ先に、この駿河台の墨屋敷、甲賀家の門を訪れたのは無論だったが、ひょいと見ると門札の名が変っている。その門札には、甲賀世阿弥の代りに「旅川周馬」という文字が書かれてあった。
しまッた! 遂に間に合わなかったのである。つまり第一に阿波へ立った銀五郎がああいうはめとなり、何の便りもなく半年以上の日が過ぎたため、隠密組の法規通り、満十年帰らぬ甲賀世阿弥は、客死したものとお上に見なされ、そのお家は断絶の命が下されてしまったのだ。
ああ、何もかもの喙――と落胆したが、とにかく、その代がわりになっている旅川周馬という者に会い、絶家したお千絵様が、どこに身を落ちつけたか、それを尋ねてみるにしかずと門をくぐった。
ところが、玄関はピッタリ釘付け、庭口も錠を下ろしてある様子。呼べど出てくる人はなく、昼だというのにすべての雨戸も閉じきってある。
黒い板塀の周りを巡ってみると、十年も主がいなかった甲賀宗家。この附近の墨屋敷の中では、最も宏壮な構えだが、広いだけに荒れ方も甚だしく、雑草離々として古社ででもあるような相だ。
と――瓦腰の隅座敷、そこの窓だけが細目に一ヵ所開いていた。