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なるとひちょう

鳴門秘帖(一)

吉川 英治

吉川英治『鳴門秘帖(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 页

青空文庫

声ばかりでなく、ひしとつかまれている手の触感でも、それはあきらかに柔らかく温い女の手だと知れる、だが女にしてはなんと粘り強い指の力だ。

「ちッ、畜生ッ……」と目明し万吉、腕が抜けるか離すかとばかり、再度の強引を試みると、家の中の女は憎いほど落ちつきすまして、

「あぶないよ」

と静かにいったものである。

「――騒ぐのはおよしなさい。わたしの側には手頃な小刀がありますからね、じたばたすると掌を窓板へ、鰻の首を刺めるように、プツンと縫ってしまいますよ……」

小刀で掌を刺し止められては堪らない。万吉はひやりとして、その女の手を羅生門の鬼かとも強く感じた。

だが、それが旅川周馬でなく、お千絵様でもないとすれば、一体誰と判じていいか。この甲賀世阿弥の廃家になった跡には、周馬が入れ代り、周馬はお千絵様をとりこにして、密かに監禁しているのだと、あの内儀がまことしやかに話したではないか。

するとあの女の話はうそだったかしら。いやいや、万吉の眼では、そんな虚言を吐く人間とは思われなかった。

彼は頭の昏迷と無駄力に疲れてしまった。

「静かにおしよ、騒ぐとかえってお前のほうの不為だからね」