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なるとひちょう

鳴門秘帖(一)

吉川 英治

吉川英治『鳴門秘帖(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 页

青空文庫

で、一方をまっすぐ走ったのである。

そこは九間の橋廊下。渡るとすぐに部屋がある。右は書院、左は居間、昔、この屋敷の主人、甲賀世阿弥のいた頃は、ここを居所と定めていたものらしく、すべて木口もしっかりとした別棟である。

お綱はそこへ逃げてきた。

すぐに書院を開けようとした。ところが――開かない!

はッと思って、居間の杉戸へ手をかけた。もう、お十夜の影、バタバタッと橋廊下まで追いついてきた。

「ああ! どうしよう」

お綱は絶望の声を洩らした。

そこもやっぱり開かないのであった。

不思議な! と、思う余裕はなかったろうが、いつか、ここをあらためた時には、たしかに、どッちの部屋も開いて、内から錠を下ろせるようになっていた筈――?

「待てッ、お綱!」

悪魔の爪が襟もとへさわった。お綱はそれを潜り抜けた。だが、もう廊下はドン詰り!

是非がない。お綱はそこで振りかえった。猫を噛むの窮鼠となって、帯の間から引き抜いた匕首を逆手にもち、寄らば、お十夜にズタズタに斬られるまでも、こっちも、相手のどこかしらへ、一突き刺し貫いてやろうという女の一念。

紅をさいて吊りあがった眦、髷も笄もどこかへ落ちて、ありあまるお綱の黒髪、妖艶といおうか凄美といおうか、バラリと肩へ流れている。