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なるとひちょう

鳴門秘帖(一)

吉川 英治

吉川英治『鳴門秘帖(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 页

青空文庫

つづけざまに、乱打のすり鐘。

「おおッ、近え!」というと、あたりの者たちは、いなごのようにワラワラワラッと駈けて散る。

「どこだ、おい!」

飯屋の亭主が、軒さきの大樹をふり仰いでどなった。もう、はしッこいのが、いつのまにか、高い枯木の突ッ尖に攀じのぼっていて、物見の役を承っている。

「近えッ。そぐそこだ!」

と、上から、素頓狂な声がしてきた。

「すぐそこだって※(感嘆符疑問符、1-8-78)」

「お茶の水、お茶の水――」

「おお、じゃ風上だ」

「おまけにかなり風が強い――」

と、その北風の吹き揺する梢に、寒鴉のようにとまった男、なおもジッと見ていたが、

「――やッ。火事は駿河台の甲賀組らしいぞ。あの墨屋敷の下の森から、真っ黒な煙が吹き出しているンだ!」

火の手をたしかめたものであろう、それを最後に樹の上の男は、スルスルスルと下へ辷って来る。

「えっ、駿河台の墨屋敷だと※(感嘆符疑問符、1-8-78)」

こう仰天して叫んだのは、今が今まで、よそごとに聞いていた万吉だった。

いまだに帰らぬお綱の消息や、あの屋敷にいる筈で、そして姿の見えないお千絵様――。この二人の運命が刹那に、火! という不安な旋風に結びついて万吉の敏な神経へ、不吉な予覚を与えた。