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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
吉川英治『鳴門秘帖(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 页
ここまで来たら、その人の安否や、難を避けている所も聞かれようかと、かすかな望みをつないできたのも空しかった。
余燼は消されつくしても、まだ人の不安と怖ろしい昨夜の騒ぎは消えていない。火消改めの提灯だの町与力の列だの、お布施米の小屋だのが、大変な混雑である。
その血眼の人たちに、お千絵の消息をたずねたところで、もとより分かる筈がないのは知れていた。で弦之丞は、「ぜひがない……」と、空しい諦めの心をいだいて、何物もない闇を茫然と見つめていた。
すると、自分の立っている所から、四、五間ほど離れた所にも、同じように、茫然たるかたちで、立ちすくんでいる者があった。
二人の侍である。
二人は腕ぐみをして突っ立ったまま、石のように肩を並べて、いつまでも、黙然として焼跡を眺めていた。
そのうちに、チラ、チラと白いものが空から落ちてきた。
雪である――牡丹雪が降ってきた。
でもまだ、向うの二人は立っていた。弦之丞も立っていた。
「ウム。そこにいるのは、やはり家を失ったこの辺の組屋敷の者であろう……。同じ甲賀組の者とすれば、多少のことは分るかも知れない」こう思って、弦之丞は、しずかに側へ歩み寄った。