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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
吉川英治『鳴門秘帖(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 页
笠といい、袴といい、そして何より差している刀が、押絵にあった自来也鞘と同じ物ですよ」
「そういわれてみると、江戸には見かけぬ珍しい朱鞘を差している」
「押絵が、抜けだして、市の景気に浮かれているんじゃないかしら……」
「まさか」と、お千代も周馬も笑ってしまった。
だが、孫兵衛は笑っていない。
お勘の見つけた自来也鞘の侍を、じっと見つめていたかと思うと、にわかに、
「周馬、おれはここで別れるから――一足先へ帰ってくれねえか」
プイとそれて、人と人との間を縫いながら、暮れかける町を足早に行く、自来也鞘のあとをつけて行った。
「オイ、天堂一角」
ふいに、肩を叩かれたので、
「おう」と、少しびっくりして振りかえった自来也鞘の侍。
熊谷笠を横に向けて――、この江戸表にこう親しく呼びかけられる者はない筈だが、と怪訝そうにしていたが、
「ウム。関屋孫兵衛か」
と膝を打って、踵をめぐらした。
関屋とはお十夜の本名である。かれも元は阿波の原士であるから、天堂一角とは、その当時の剣友か飲み友達であるらしい。
「奇遇だなあ」
「変ったなあ」
同じ言葉を投げあった。
「珍しい……何年ぶりになるであろう」