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なるとひちょう

鳴門秘帖(一)

吉川 英治

吉川英治『鳴門秘帖(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 页

青空文庫

「もう久しい間、家へもよりつかないこの姉を、よく覚えていておくれだッたね。おお、ほんとにお前たちも、すッかり大きくおなりだこと……」弦之丞や万吉の前も忘れて、止めあえぬ熱い涙を、さすがに女らしく注ぎかけた。

お三輪もシャクリあげていた。

乙吉も大粒の涙をこぼして、筒袖の腕をあてていた。

「三輪ちゃんご免よ――、乙吉もかんにんしておくれよね。今に私が家へ帰ったら、角兵衛獅子なンかさせておきゃあしないから。――いい着物も買ってあげる……おいしい物も食べさせてあげる……そして寺小屋へも勉強に通わせてあげるから……ねえ」

「うん、姉ちゃん、ほんとにネ」

「ああ、嘘なんかいうものじゃない。――だから……いい子だから、暫く我慢して働いていておくれ、私が家へ帰るまで……」

「…………」

「分ったかい! 姉さんはこれから、ほれ、向うにいるお二人の方と一緒に、大事な用があって行く途中なのだから、日が暮れないうちに、早く家へお帰りなさい」

「いや!」

ハッキリとかぶりを振った。

そして、どこまでも離れまいとするように、袂の端を握りしめる。無邪気なだけに、純情であるがゆえに、こうなるといくらいいすかしたり、わけをいってきかせても、ウンと承知して帰る気ぶりはないのであった。