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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
吉川英治『鳴門秘帖(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 页
夕雲流真髄
と思うとまた、
「弦之丞様! アレ、アレ、弦之丞様ッ――」
絹を裂くように叫びながら、バタバタと走りだしてきた美しい女がある。
続いて後から、付き添いの女や家来たちが、ワラワラと手を振って、
「アアお千絵様――、お千絵様がまたお狂い遊ばして――」と、あっちこっちへ追い廻してくる。
背すじへ水を浴びたように、お綱はそこに立ちすくんでしまった。そして、麗しい友禅に身をつつみ、蝋より青白い顔をカラカラと笑みくずしながら、大勢の者に抱き戻されてゆく、お千絵の姿をありありと見た。
「おお大事な薬を忘れていた」
鴻山は別な用口へ廻って、奥坊主の者に、源内秘方の蘭薬を、お千絵にのますことを言いのこして、急ぎ足に裏門の潜戸をぬけ出した。
夕雲流真髄
春の夜の寒さは、襟と爪の先からしみてくる。
炉にはトロトロと紫色の火が崩れていた。
「どうしたのだろう? ……今日でもう七日目だが」
また同じことをいって、万吉は指を繰っていた。炉に対して弦之丞は、ピシリと二、三本の枯れ枝を折り、衰えかけた榾の火へつぎ足している。
「――あんなに熱く言っていたんだから、もう訪ねてこなけりゃならねえ筈だが。