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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
吉川英治『鳴門秘帖(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 页
「お米か、ずっとこっちへ寄ってくれい」
「はい、いつぞやはまた、とんだお粗相をいたしまして」
「何の……」といったが啓之助、素姓のしれない虚無僧ずれに、生洲の水へ投げこまれた醜態を、お米にも見られていたかと腋の下から冷汗をおぼえている。で、テレ隠しに、
「いつにも増して、まばゆいばかりな化粧あがり、どこぞへ出かけるところであったか」
訊かれたのをいい機にして、
「ええ、はずせない急用がございますので……そして森様、私に御用とおっしゃるのは?」
「ウム、ほかではないが」と啓之助、声と片肘を前へ落して、お米の顔を覗きこむ。
「当家の離れにおった江戸の男とあの夜の虚無僧、もはやここにはおらぬそうだが、まさか、他へ匿っておくのではなかろうな」
「いいえ、決してそんな……」すぐ打ち消したが、これからそこへ行こうと思い燃えているお米の胸。ギクリと一本釘を刺されて、動悸に顔色をさわがした。
「覚えがなければそれまでのこと、深く追及するのではない。わしはただ同僚の手前、役目として一応糺しにまいっただけじゃ……」優しく砕けた啓之助は、すくんでいるお米の手を握ってグイと側へ引きよせた。