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おうごんかめん

黄金仮面

江戸川 乱歩

作者――江戸川乱歩氏曰く「キング」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年8月号<br>黄金仮面「キング」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年9月~1931(昭和6)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 143,357 字 · 287 页

青空文庫

といって、そのまま指をくわえて引込む黄金仮面ではなかった。名探偵の用意が行届けば行届く程、彼は寧ろ勇み立って、次から次へと攻撃手段を案出した。そして、遂に、あの途轍もない事件が起る様になったのだ。

それは賊の迫害がはじまってから、丁度一週間目の夜であった。いつも明智が窓際の読書から寝室に退く、十時に五分前というきわどい時刻、流石の名探偵も、全く予想しなかったであろう様な、思いもかけぬ方角から、賊の最後の非常攻撃が行われ、しかもそれがまんまと効を奏したのである。

十時五分前、一台のありふれた型の円タク自動車が、水道橋の方から、開化アパート前の電車通りを、規則一杯のフル・スピードで走って来た。見た所どこといって変った様子もなかった。ただ、テイルの番号標の白い数字に、泥がかかって、半分程全く見えなくなっていたけれど、ゴー・ストップのお巡りさんも、まさかそれが、番号を隠す為に故意に泥を塗ったものとは気づかず、何気なく見送ってしまった程だ。

外見はその様に何のこともなかったが、若し人あって、箱の中の客席を覗き込んだなら、余りのことに、アッと驚きの叫声を立てないではいられなかったであろう。