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おうごんかめん

黄金仮面

江戸川 乱歩

作者――江戸川乱歩氏曰く「キング」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年8月号<br>黄金仮面「キング」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年9月~1931(昭和6)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 143,357 字 · 287 页

青空文庫

躍込んで行ったかと思うと、バン……という発砲の音、野獣の様なうめき声、そして、ドシンと人の倒れる響。

どちらが発砲したのか? どちらが倒れたのか?

今は一瞬も躊躇すべき時ではない。波越警部と、西洋悪魔に扮した人物は、殆ど同時に部屋の中へ飛び込み、将に第二弾を発砲せんと身構えていた伯爵の、ピストル持つ手を取り押えた。

「いけません。大切の犯人です。殺してはいけません」

警部は相手に通じぬ日本語で、気違いの様に叫んだ。今この怪物を絶命させては、親友明智の生死も、大鳥令嬢の行衛も、分らなくなってしまうのだ。

怪物は、一匹の金色のけだものの様に、黒天鵞絨の床の上に傷つき倒れていた。弾丸は胸をうち抜いたと見えて、黄金マントの胸からと、三日月型の金色の唇からと、糸の様な血潮が、タラタラと流れていた。致命傷だ。しかしまだ全く絶命してはいなかった。

「マスクを、マスクを」

伯爵が叫ぶ。

警部は、怪物の上に身をかがめて、その無表情な黄金仮面に手をかけた。手をかけて思わず見震いした。

アア、この仮面の下には、一体全体何が隠されていたのであろう。今こそそれが分るのだ。世間は、被害者達は、そして警視庁は、どんなにか、この一瞬間を待ち望んだことであろう。