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おうごんかめん

黄金仮面

江戸川 乱歩

作者――江戸川乱歩氏曰く「キング」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年8月号<br>黄金仮面「キング」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年9月~1931(昭和6)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 143,357 字 · 287 页

青空文庫

追手のお巡りさんが走りながら気違いの様に怒鳴った。併し監督席の警官には通じない。それもお芝居のせりふの内だと思い込んでいるからだ。

その時、舞台に数名の、明かに役者でない人々が立現われ、ドカドカと見物席に飛降り、お巡りさんのあとから走り出した。その中には、見覚えのある、さっき幕外で見物達に話しかけた警官の顔も見えた。

鈍感な群集にもやっと事の真相が分った。笑い声がパッタリ静まった。一瞬間死の様な静寂、続いて湧起る恐怖のざわめき。訳の分らぬののしり声。

だが、その時分には、怪物はとっくに木戸口を脱出して、会場内の広っぱを、まっしぐらに走っていた。

こんな風に書いていると長い様だが、舞台が明るくなってから、怪物の姿が木戸口の外に消えるまで、僅々二三十秒の惶しい出来事であった。

それにしても、何たる奇怪事、何たる大胆不敵のトリックであろう。舞台で喜劇を演じていたのが、恐ろしい真珠泥棒、本物の黄金仮面であったのだ。お巡りさんも役者ではない。真珠陳列場から犯人のあとを追った正真正銘の警官達だ。彼等は演劇の中途で、やっと怪物のトリックを看破し、開演中をも構わず舞台に躍り出した。