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あだこ

あだこ

山本 周五郎

「小説倶楽部」1958(昭和33)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,762 字 · 46 页

青空文庫

半三郎はさぐるように訊いた、「それで、――どうやって借りたんだ」

「わだば云ったです」彼女はちょっと眼を伏せた、「あたしそう云ったんです、小林さまのお屋敷へこんど来たあだこですって、――わだば、あたしこのお屋敷で、使って頂くつもりでしたから」

「おまえが、どうするって」

「お願い申します」あだこと名のる女は手をついておじぎをした、「あたしほかにゆくところがないんです、どんなことでもしますからどうぞこのお屋敷に置いてやって下さい」

「だめだ」と彼は云った、「給銀をやれないばかりでなく喰べさせることさえできない、自分ひとりでさえ食えなくなって、六日も水ばかり飲んでいたんだ」

「お給銀なんぞ一文もいりません、喰べる物はあたしが都合します」とあだこは眼をあげて云った、「わだば今日はじめてだから、ちっとしか借りませんでした、それでも旦那さまとあたしだけなら五十日や六十日はやってゆけます」

「五十日、だって」

「はい」とあだこはこっくりをした、「米は精げたのが一斗、ほかに俵で一俵借りました。醤油も一と樽、塩は五升、味噌も冬だから味は変らないと思って、これも一と樽、お酒はわからないので一升だけにしましたが、めしあがるんでしたらまた借ります、魚銀からは塩引の鮭を二尾と干物を十枚、干物は風に当てれば十日は大丈夫だって云いました、それから