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あだこ
あだこ
山本 周五郎
「小説倶楽部」1958(昭和33)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,762 字 · 46 页
半三郎は眼をそむけて云った、「いって食事にするがいい」
彼は坐ったまま、長いこと庭のほうを眺めていた。塀の向うは松平相模守の中屋敷で、大きな榎が五本並んでおり、その裸になった枝に雀が群れていて、ときどきぱっと飛び立ってはまたべつの枝にとまり、すると散り残った枯葉が舞い落ちるのであった。
「そうだ」とやがて彼は呟いた、「十兵衛のしごとだ、曽我十兵衛がよこしたにちがいない、そうでなくってこんなことがある筈はない」
彼の唇に歪んだ微笑がうかんだ。
「そのくらいのことだと思ってるんだな」と彼は挑むように云った、「まあやってみろ、いいだろう、辛抱くらべだ」
あだこはよく働いた。
五日もすると家の中はきれいになり、風呂もはいれるようになった。半三郎の世話もよくする、毎日きちんと月代を剃ってやり、髪を結い、髭を剃らせる。風呂も毎日たてていれるし、手爪先のことまで面倒をみる。寝ころんでいると起こして、躯に毒だから少しそとを歩いて来い、などとも云った。――彼女はこれらのことを手ばしこく、また極めてしぜんにやった。半三郎の世話をするにも、決して押しつけがましいところはなく、いやだと云えばむりにすすめるようなことはなかった。