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あだこ

あだこ

山本 周五郎

「小説倶楽部」1958(昭和33)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,762 字 · 46 页

青空文庫

「まあ、聞いていらっしゃらなかったんですね」とあだこはにらんだ、「津軽の弘前です。弘前の殿さまのお別荘が唐内坂にあるんですわ、口では云えないほど景色のいいところで、唐の国にもないだろうというので、からない坂って名を付けたのですって」

「わかった」と彼は頷いた、「しかしその別殿の庭でなくっても、鼬ならこの江戸にもいるよ」

「夫婦の鼬がですか」

「それはわからないが、仔を生むんだから夫婦もいるんだろう」

「でもその鼬は三十年の余も、夫婦で仲よくくらしていたんです」

「ふん」彼は火桶へ手をかざした、「そんなことがどうしてわかるんだ」

「それはおどさまが、父がずっと見ていたからです」とあだこは針を留めて云った、「子供のじぶんから見ていて、三十年の余も経って、そうすると、夫婦ともすっかりとしよりになってしまったんですって」

「鼬もとしよりになるんだな」

「そでしてす」あだこは続けた、「すっかりとしよりになったもんで、男の鼬は頭が禿げてしまうし、女の鼬は髪が白髪になってしまったんですって」

半三郎はあだこを見た、「あだこの父親はその御殿にいたのか」

「はい」と彼女は答えた、「じいさまの代からお庭番をしていました」