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あだこ
あだこ
山本 周五郎
「小説倶楽部」1958(昭和33)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,762 字 · 46 页
弱いあきんどの物を飲みつぶし食いつぶし、おまけに下女に賃仕事までさせておいでなさる」
「待て」と彼は遮った、「きさまは唯で持って来るように云うが、代銀は曽我が払っている筈だ、おれは知っているぞ」
「曽我さんですって」
「土堤三番町の曽我十兵衛だ」と寝ころんだまま彼は云った、「あだこをよこしたのも曽我だし、曽我が代銀を払うからこそきさまたちも米味噌を持って来るんだ、そうでなくって、それまで帳面を止めていたきさまたちが、急にまた物を持ちこむわけがあるか」
市兵衛は沈黙した。半三郎はざまをみろと思いながら、ゆっくりと寝返りをうった。
「持って来たくなければよせ」と彼は作り欠伸をした、「今日の米も持って帰れ、それで文句はないだろう」
襖の向うはひっそりしていた。半三郎は肱枕の首をあげた。襖の向うには人のけはいもない、帰ったのかと思っていると、やがて洟をかむ音が聞え、ついで咳をするのが聞えた。
「米は持って来ます」とかすれた声で市兵衛が云った。
「なに、二人くらいの米代は高が知れてます、米は持って来ますが、思い違いがあるといけねえから、いや、旦那が思い違いをしているようだから、これまでのゆくたてをざっと申上げておきましょう」