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あだこ

あだこ

山本 周五郎

「小説倶楽部」1958(昭和33)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,762 字 · 46 页

青空文庫

「あればあるで遣ってしまうし、遣いぐせが残るだけですから」とあだこは云った、「旦那さまが勤める気になって下さらない限り、お金は却って邪魔だと思いました」

「おれは勤めることにした、今日、十兵衛に頼んできたんだ、進物番に空いている席があるそうで、四、五日うちには出仕できるようになると思う」

あだこは吃驚したように顔をあげた、「わたくしがなにかよけいなことでもしたのでしょうか」

「そんな心配はするな」と彼は首を振った、「それよりもあだこが、どうやって江戸へ来、どうして、おれの家へはいったのか、その話を聞かせてもらおう」

「縫い物をしながらでもいいでしょうか、あたしなにかしながらでないと、うまく話ができないんです」

彼は頷いた。あだこは再び針を動かしながら、ゆっくりと話しだした。

家を出るまでのことはもう話した。なんの当てもなく、頼るさきもなかったが、幸い木を買いに来て仙台へ帰る商人に会いその老人に伴れられて仙台まで出た。老人はあだこが江戸へゆきたいと聞いて、知人の海産物商にひきあわせてくれ、そこの船で石巻から江戸へ出、その海産物商の江戸橋に近い店で奉公することになった。